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東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科

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腹膜透析について peritoneal_dialysis

       

腹膜透析(PD)とは

腎移植、血液透析と共に末期腎不全に対する治療法(腎代替療法)のひとつです。
腹膜透析では、腹腔内(おなかの中)に透析液を注入し一定時間貯留している間に血液中の尿毒素や塩分・水分が腹膜を介して透析液に移動します。その後透析液を体外に取り出すことで血液浄化を行います。

週3回通院して行われることが多い血液透析と比較して、

  1. 01通院回数を減らせて自由に過ごせる時間を作りやすい
  2. 02時間をかけてゆっくり透析が行われるので体への負担が少ない
  3. 03カリウム制限が緩やか
  4. 04残っている自分の腎臓のはたらき(残腎機能)を長持ちさせることができる

などのメリットがあります。
PDが血液透析に比べて十分普及していない理由の一つに、PDに関する十分かつ正確な説明・情報が腎不全の患者さんやご家族に伝わっていないことがあります。
しかしながら、PD療法は腎代替療法としての十分な医学的根拠があり、患者さんにとってメリットの大きい治療法であり、血液透析に劣らない治療法です。当科でも2001年8月より開始し、これまで120名以上の方が腹膜透析を導入されました。

腎不全が進行して透析が必要となった時、PDを第一選択とする「PDファースト」という考え方があります。残腎機能がある(尿量がある程度出ている)方はPDを優先して導入することで、PDの利点を十分生かすことができると考えられます。

腹膜透析の実際

腹膜透析の準備

腎臓の働きが徐々に悪くなって透析が必要な時期が近付いてきたら、おなかの中に透析液を入れるための管(カテーテル)を挿入する手術を行います。
カテーテルの先端がおなかの中で移動して透析液の出し入れが不十分になることを防ぐため、当院ではカテーテルの先端がおなかの中で最適な位置に来るように手術の時に固定しており、それによってPD開始後のトラブルが明らかに減少しました。
カテーテルが皮膚の下から外に出てくる部位(出口部といいます)は腹部の左右どちらかに作られることが多いですが、ベルトやシートベルトが当たったり腹部のしわに一致する部位は避けます。

腹膜透析の種類

生活スタイルや医学的な必要性を考慮して、最適な腹膜透析の方法を決定します。

CAPD
昼、夜間を通して1日1~4回透析液を交換(おなかに入れたり出したり)します。 おなかの中に透析液が貯留している状態でも自由に動くことができます。

 

  1. ・交換時間は治療上問題がなければ、1日の生活サイクルに合わせて決めます。
  2. ・「バッグ交換」時間以外は自由に動けます。また、自宅以外の場所でも交換が可能ですので、仕事を継続したい方には有効です。
APD
機械が自動的に透析液をおなかに入れたり出したりします。

 

  1. ・夜間のみ(NPD、タイダールPD)
  2. ・夜間に加え昼間にも1~2回交換追加(CCPD)

システムの選択

腹膜透析のメーカーには、テルモ、バクスター、フレゼニウス、JMSがあります。
当院では、中性透析液が最初に市場に出されたことおよびデバイス(接合装置やAPDの装置)の操作性を考慮してテルモのシステムを採用しております。
なお、他社システムを御希望の患者さんの場合、処方を連携透析病院からとすることで対応可能です。

残腎機能について

腹膜透析は血液透析と比べて残腎機能(尿量が十分出て過剰な塩分・水分を排出する、腎臓から老廃物を排出する働き)を保持しやすいと考えられています。PDでは残腎機能が生命予後(どれくらい長生きできるか)に影響することが知られています。

残腎機能をできるだけ長く保持するためには、自己管理(塩分の過剰摂取を避ける、手順通りの透析液交換操作で腹膜炎を予防する、など)が重要です。
残腎機能が低下してくると腹膜透析だけでは透析不足になり、過剰な塩分・水分や老廃物(尿毒素)が体の中に溜まってしまいます。残腎機能が低下してきた時は、1~2週間に1回程度の血液透析を併用することをお勧めしています。

PDの合併症について

PD腹膜炎

透析液交換時のミス、出口部からの感染、自分の腸から細菌がお腹の中に侵入するなどの原因で腹膜炎を起こすことがあります。
透析液は混濁し、腹痛、発熱などの症状がみられます。正しい手順で透析液交換を実施することなどである程度の予防は可能です。

出口部感染・トンネル感染

カテーテル出口部や皮下トンネル部に細菌の感染を起こした状態です。出口部やトンネル部の疼痛、発赤、腫脹、出口部からの浸出液がみられます。
自宅で出口部ケアをきちんと行うことが予防のために重要です。

被嚢性腹膜硬化症

長期PD、不十分な状態でのPDの継続、生体適合性が悪い透析液の使用などによる腹膜劣化に続いて起こるとされています。
進行すると腸が癒着し腸閉塞になることがあります。
1990年代後半から十分な検討がなされ回避方法や治療方法が明らかになってきています。現在は透析液が改良されて生体適合性が高い透析液を使用していること、および腹膜の状態を定期的にチェックすること、残腎機能低下後に無理な長期間PDを行わないことなどで予防します。
当院ではこのような方法で、被嚢性腹膜硬化症を予防することに成功しています。専門医に継続してかかるようにすれば恐れる必要はないといってよいと思います。

腹膜透析の良い適応と考えられる方

  • 尿はまだ十分出ているが腎不全のために新規に透析療法を開始しなければいけない方
  • 5年以内に腎移植の予定がある若年の方
  • 仕事や生活の理由で5-8年程度は血液透析のための通院が困難な方(それ以上の長期PDの継続については残腎機能や腹膜機能を評価しながら行います)
  • 医学的理由で血液透析が困難な方(ブラッドアクセス、心血管障害が強い、など)
  • 70才以上の高齢の方 (高齢の方には、体の負担が少なく良い適応と思われます。自立操作が困難な場合や介助者がいない場合には、訪問看護ステーションや地域血液透析クリニックと連携をとり、社会資源を積極的に活用するようにしております。)

当院での診療

PD患者さんは腎不全患者さんですので、腎不全病態およびPDに詳しい専門家による診療が必須です。
また、入浴の仕方や出口部のケア、緊急時の対応などについてはPDに習熟した外来看護師のアドバイスやケアを継続して受けていただくことで常に最良の状態を保てると思います。
したがって、普段の外来は当院のPD外来に月に1回ないし2回通院していただいております。

残存腎機能が消失した患者さんは、腹膜透析だけでは透析か不十分となりやすいため、1-2週に1回の血液透析を併用して腹膜透析治療を継続できるように、地域の血液透析クリニックと連携しています。
高齢で介助が必要な患者さんの場合には、訪問看護ステーションおよび透析クリニックと連携し、ご本人や家族への負担を軽減できるように努めています。

PDの合併症やその他の合併症(心臓病、肺炎など)により当院への入院が必要な場合には、当院の血液浄化療法部や他の診療科と連携して診療を行うことで、あらゆる状況に対応可能です。
他院の外来にかかったり入院する必要がある場合には、腎不全治療がスムーズに行えるように診療情報提供を行っております。

透析を開始する前から、時間をかけて患者さん1人1人に腎不全や透析療法について理解していただくことで、スムーズにPD導入ができるように努めております。主に他院へ通院されながら腎不全や透析療法についてのお話を当院でさせて頂く患者さんも多いです。
PDから腎移植をご希望の患者さんの場合、東大病院での腎移植や他施設へのご紹介が可能です。東大病院では、腎移植前から移植後まで、検査・術後の全身管理・腎移植後の外来診療などを、腎臓内科と泌尿器科が協力して行っております。